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生涯が限られるならば、やり遂げられる仕事の数も限られる。ならば、一品一品大切に、技術的にも心情的にも自分自信が納得できる仕事の仕方をしていきたい。その結果、仕事をさせていただいたうちの幾人かでも、職人のこだわり、そのたたずまいの違いに気付いて頂ければ幸いです。
表具師という言葉も、知らない人が増えました。身勝手な願いだと思いますが、せめて、あと私一代だけでも、本物の襖を作りながら、暮らさせていただきたい。そして、出来ることなら、その後もずっとこだわる人が仕事をしていける世の中であってほしいと願います。
文献の中だけで残っている技術はほとんど瀕死の状態です。実際に生き続けてきたものとは、時代のずれが別のものにしてしまいます。そんなことにならないように、残していってほしいものがあります。最新のものが最良なものとはかぎりません。かといって、すべて、昔のままが良いと言っているわけでもありません。たとえ表面が変わっても、変えられない大切な部分、その肝心なところまで、捨て去るのは後退であると思います。変えてはならない部分では変えないことが、後の前進に繋がると信じます。
外国の人々があこがれる日本文化。その一端を担っている表装の技術(arte)。 他の国では見ることのできない和紙の科学(scienza)。 先人が、真摯に築き上げてきたもの。 その技術は結果を見るまでに幾年もかかります。ですから、一度失ってしまうと、取り戻すのに、さらに永い時を必要とします。先人たちの想像力とそれを確かな形にした行為、そしてその頭の良さ、謙虚な姿勢にはその技術に触れる度、頭がさがります。一介の表具屋にすぎない明仙堂の技術もすでになかなか見られない昔ながらの技術になっています。Development for New Customersという言葉は、今は亡き父が残した表装技術の記録帳の表紙に書いてあった言葉です。その膨大な記述はいわゆる手並(How to)ですが、その行間からは、深い意味(WhatあるいはWhy)を読み取ることもできます。