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凄烈ジャズ喫茶ベイシー 1999.5.28



“ステレオサウンド”という雑誌に日本一音の良いジャズ喫茶、「ベイシー」 の記事を見つけたのはそんな頃だ。惹かれたのは、使っているスピーカー ユニットが、自分の物とほぼ同じ四半世紀も前の製品を、当時から使用し続け、 今だ日本一と言われる音を出している?しかもレコードで!ということ。 「気に入った傾向の音は出るけど、、そんなすごい音なんて。。何かの間違い じゃないか。」
その頃にはオーディフェア等で450万円のスピーカの音もすでに 聞いていたが、感動の点では自分のぼろぼろのスピーカ程度で十分張り合える し…でも気にかかった。

 本当のものであるなら永世変わらぬものであろう が、本物でなければ変わっても仕方がない。不変のベイシースピーカシステムを目のあたりに したのは1993.11.3[TUE.]のこと。東北の一関まで行ってしまうところをみる と、諦めているようで諦めきれずにずっと何かを知りたがっているようだ。

営業時間はAM12:00〜となっているが、いっこうに開く気配もない。
しかし、シャターは半開き、中に重そうなドアが見える。開店までまつことに。 12:42。ケタタマシイ!排気音が遠くから聞こえてくる。こんな真っ昼間に 暴走族かと思い見て見ると、すさまじい排気音を轟かせて深緑色の ダットサンフェアレディSR311がむかって来る。SR311の実物を見るのは 初めてで、こんな轟音がするのかと感心していると、目の前で急ブレーキ!、 と、入り口に一番近い駐車スペースにバックで勢いよく突っ込む。 降りた人物の顔、ギョロリとした目は、紛れもなくS氏である。写真で見る よりずっと精悍な顔は野武士の様である。あっけにとられている私に、 目を合わせず一言、「まだやってないよ。」と言うと背を向け、足早に 歩き出す。「何時頃開きますか。」 聞こえない様である。そのままさっさと 母屋?の入り口に消えて行った。

「どういう意味だろう。まだしばらく 開けないのかな。」と思い、15分くらいあたりをうろつき戻ると、「なんと!」 開いている!重いと思い込んでいた扉は、意外にも、ふわりと軽く開いた。目の前は壁。 左を見ると2m程先に2つめの扉が見える。それも軽く開け中にはいると、 「暗い。」映画館の中に入ったようだ。

思っていたよりも小音量でバラード風の ジャズがかかっている。
目が慣れるのと、正面の巨大な黒塗スピーカの 偉様さに目が捕えられているのとで、しばらく立ちつくしてしまった。 適当な席に座り、見回すと、朝顔型ホーンを用いたランプ 白壁一面のサイン  額 アンプ等 写真で見た物の位置関係がわかってくる。マスターが 水を置き、注文も聞かずに去って行く。年季のはいった椅子に座り直すと チとワクワクした。「今ベイシーに居る。」

J.B.L.スピーカシステムの たたずまいには凄味がある。気を抜いていると吸い込まれる様にボーと 見とれてしまう。魅せられるとはこういうことかなどと思っていると、 マスターがやはり、何も言わずに、コーヒーとBASIEと書かれた黄色の紙を 置いて、すっと去る。それにしても、案外柔らかい音、それも少し抑えた 音量だ。
1枚目のL.P.が終り、2枚目となる。
次はボリゥームを上げるのが 、L.P.故に?わかった。冷静だったのはここまでだ。

ズゥッパッァーン!

という切れの良いキックドラムの音。 L.P.が変わると、一瞬に表情を変える 。音は空気を味方につけ、空間をグラリと無理なく揺らす。軽い低音。ドンときて、 フワァ〜と、足元をぬけて行く感じが凄い!冗談じゃない。いったい、こんな音、 機械から出ていいのか?しかも25年も昔の機械から。はっきりあせった。 次元の違い。たかがステレオでも真剣に打ち込むとここまでのものになるのか 。生涯初めて、目から鱗が落ちるという経験をしてしまった瞬間だった。 (耳から××か?)中高音は自分が良いと思う音の延長線上にあるようなのが 、せめてもの救い。その曲は私好みのスピード感のあるものだった。 好みを見抜かれている?

 ステレオ装置の音の記録は出来ないが、音の記憶は残る。
その記憶に苛まれる 日々が始まった。あれは夢だったんじゃないのか?とても出そうにない音。 しかし、認めなければならないが音の記憶は、人が思っている よりは正確だ。音楽を聴くということ自体がそもそも無駄な行為なのだから そこまでしなくても、と自分に言い聞かせようとするがそれこそ無駄だった。 もともと、物にこだわる人の方が好きだし、感動するものを探したがる タイプらしい。BASIEの空間は、S氏のライフスタイルの具現になっていると 強く思った。周りを固めている物に一つ一つ何らかの意味と出会いがあり、 意味のない物は置かない。それは案外、出来そうで出来ない。それを平気 そうな顔でやってしまっているのをみると、出そうもない音を出すことも 出来てしまうのかもしれない。
「本気でやってもいいのか。あきらめるならば 、もう少し本気でやってみてからにするか。」
ここから先は自分でもマニアの 世界に足を踏み入れたと自覚している。

あれから5年、あんな音今だにでない が、首根っこだけはつかんでいるつもりだ。あのとき、自分にとって真っ当なやり方を教わった気がする。オーディオなんて機械をつなげば終わり そうなのに、こんなに楽しめるなんて不思議だ。




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