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その日は、夜明け前から雨であった。
久しぶりの本格的な降りである。
天気予報では、このまま明日まで降り続けるという。
しかし、気分は爽快だった。
「久しぶりに、まとまった距離を走れる。」
そう思っただけで、心が沸き立つ。
元々、バイク、車などで、長距離を走るのは、好きなのだ。
それに、今回は、行った先で「音」が聴ける。O君のオーディオ装置の音。
当然なのだが、、入力から出力まで、全てO君の選択した装置の音=”O Sound”だ。 彼の音の”片鱗”は、前に書いた様にずっと昔、ぼくのところに真空管アンプを持ってきてくれたときに 聞いていた。しかし、この時は、入力が、ぼくのところのカセットデッキで、出力も、 ぼくのところのブックシェルフ型スピーカーで音を出したわけで。。彼の音であろうはずもない。 そう考えると、当時、彼の音をチャンと聴いたことがなかったわけで、 「そういえば、、そうだったのか。」と不思議に思うと同時に、惜しいことをしたと、 今更ながら、、そう思う。丁寧に道順を説明してくれた彼のEメールのおかげで、道に全く迷うことなく到着できた。 このEメール、実は、インターチェンジを降りてからの要所の写真を7枚も!添付してくれていたのだが、 それを今回ぼくが来るというので、わざわざ取ってきてくれたということで、これを以って、 彼の性格の一端をかいま見ることができると思う。「そういう方法もあったのか!」と感心したが、 その手間を思うと、、頭が下がります。
挨拶もそこそこに、2階に上がり、彼がリスニングルームにしているの部屋に入ると、 話に聞いていたエレクトロボイス センチュリー500SVBが出迎えてくれた。このスピーカーは、 12インチ(30cm)ウーファと木製ホーンを持つツィータの2ウェイが、大きめのキャビネットに入った (普通に言えば)フロア型である。 それが、純正のスピーカーの 台にちゃんと乗せられてセッティングされていた。
リークのプリとパワーとは、ほぼ20年ぶりの再会である。 透き通る様な茶色のセルロイド?製のパネルを持つ小さなガタイのリーク ポイントワン プリアンプは、 リークの文字部分が、内部に仕込まれた電球で「ぽっ」と浮かんでいる。その風情は、 全体の暖かい色合いと相まって、現在の機器には、見られないもので、今となっては新鮮だ。 このプリアンプの電源は、パワーアンプから特殊な太い一本の配線でプリ、パワー間の出力と 共に導かれる構造になっている。 そして、リークのプリアンプから入力された信号は、リーク ステレオ20のガタイにあるRCA端子から、 新規に導入したファイナル プッシュプルパワーアンプに導かれていた。 部屋に入った時にはすでに、それら真空管式の全ての機器に電源が入り、ウォームアップされていた。
ICやトランジスタ、FETの時代になっても、マニアの間?では、ラジオやオーディオ機器などの 電源を入れるのを俗に「火を入れる」と言うが、これは、まず間違いなく、真空管に灯りが 灯るところから来ているのだろう。。
それらの情景は、、文字通り”火”が灯っていて、、美しい。
レコードプレイヤーは、ガラードやトーレンス等の往年の機種を使用しているのでは?と 勝手に想像していたのだが、意外にも、現在でも作り続けられているテクニクスのリーズナブルな 機種であったが、これは専門紙でも、評価の高い定評のある物。ソニー製のCDプレイヤーは、 5000番シリーズと言えば分かる人には分かるトップローディング式の機能美を持つシンプルな デザインの物で、実は、これは、ぼくの“気になる一台”でもある。
これらの機器も、圧巻であるが、さらにすごいのは、1500枚位と聞いていた、そのLPの所有量だ。 ガラス扉の付いた大きな家具二つに、ぎっしり!で、溢れそう。。 で、実際に溢れているのだが(笑)、、これでまだ、一部であると言う。。 その他をどこかに隠匿している様であるが。。そうなるとこれは間違いなく、 そんな程度の枚数ではないはずだ。
早速、LPを聴かせてもらおう。と見ると、ぼくもCDで持ってきていたアートペッパーの 「ミーツ ザ リズムセクション」が目に付いたので、所望する。 これは、アートペッパーのサックスが左のスピーカーから、、と、右から聞える!? 「前にもある販売店でこんなことがあったなぁ。まさか、本当は、自分のスピーカーの配線が違ってる、 なんてことは。。」と慎重なぼくではあるが、複雑な配線のマルチアンプをしている手前、 再三、配線チェックに余念が無いので、「やはり、それは無い。」 心の隅で申し分けないとは思いながらも、このままにはしておけないので、 「左右の出力が逆になってる様子だ。」という旨を伝え、二人でチェック。 結局、アンプからスピーカーへの出力の配線が左右逆になっていただけであった。 どうやら、ぼくが来るということで、調整してくれていた時に、単純に接続ミスをしてしまった様で、 これは、御愛敬。。ということで、仕切直し。
音は、真空管アンプと聞いてイメージする、昔聞いた、暖かく柔らかい音ではなく、黙って聞けば、 そうであるとは気付かない、バランスの取れたものであったので、正直に白状すると、、驚いた。
これは、「エレクトロボイスの500SBVという高能率タイプのスピーカーのせいなのか。。 それとも、ファイナルという真空管アンプのせいなのか。。」と思っていたら、 それを察した、O君、手間を惜しまず、ファイナルのアンプの配線を外し リークのプリメインだけで 鳴らしてくれた。アンプで音が変わるのは、承知していたつもりだが、その音の変化は想像以上だった。 いきなり、あの昔聞いた暖かく柔らかい音に変わってしまった。 それは、スピーカーを変えた時に匹敵する程の大きな音の変化であった。 アンプがここまで音質を主張していいものか。。今あらためて聴くと少し霧がかかった様な、、気持ち、 モヤケタ感じもするのだが、こういう世界があっても一向に構わないというか、、 完全に消しさるのは惜しい気持ちも湧いてくる。そんな余計な心配はしなくても、 O君がちゃんと守ってくれるはずだ。20年来、使い続けたアンプを無下に手放したりしないでしょ! 「ねっ、O君!」
CDとLPのそれぞれの音については自分のシステムで感じたものと共通の感触を掴んだ。
「やはり、LP恐るべし。」
このことは、ぼくは、つい最近になって気がついたことなのに。。 ということは、彼は、20年近くも前からこの水準の音を聴いていたことになる。
「O君、、恐るべし。」