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掛軸を仕立てる場合、反りを防ぐ為の様々な手段を、実は、行なっています。 周りの切れ地の厚さとのバランス、裏打ちの紙の選定と回数、紙の漉き目の向き、 糊の濃さ、そして軸棒と八双の木の取り付け方向とその大きさと重量。。 こういうことに気を配ることにより 適当に作られた物に比べれば、確実に反り難いのですが、それでも絶対に反らないとは、言い切れません。 なぜなら、厚みを持たせてはありますが、 軸棒に巻ける程度の“しなやかな紙”である事には代わりないからです。これからの季節は、湿度の高い日が多くなり 掛軸にとっても、良い季節です。 それは、壁にかけた掛軸を一年間観察し続けますと。。なんといっても 梅雨時が、一番しっとりとバランス良い形状で佇んでいるからです。
最近の家は、土壁が減りました。
床の間といえども、例外ではありません。
一見、土壁に見える壁でも、ベニア板に、それっぽいクロスが張ってあり、 握りこぶしで、軽く叩くと「ボコ、ボコ」という頼りない音が返ってきます。床の間に掛けた掛軸の後ろの壁が、 土壁である場合と、ベニアの場合でその状況は全く違います。 土、木、紙の三種類のそれぞれ違う速度で湿気をコントロールしていた昔の家と、 ベニア板と断熱材主体の今の家。 さらに、エアコン等で基本的に乾燥され続ける状態の中で掛けられる掛軸。。 どう考えても、今の家の方が、乾燥して反りやすいのです。
昔の家の座敷の床の間を思い出して下さい。 障子を隔てて向こうに縁側があります。 縁側に座って見上げれば、深い軒が見えます。 そのため南に面しているにもかかわらず、 座敷には、日差しが燦燦と、、という具合にいきません。 その代わり天気が良くても悪くても窓を開け放つ事が出来ます。 少し抑えた光が入る座敷の床の間は、引っ込んでいるため、 さらに陰影が深くなります。 床の間の中を見上げると、天井の高さと同じ高さがあるにもかかわらずその手前に、 鴨居の高さの壁が残してあります。 そして“その中”に、ひんやりとした土壁を背にして、掛軸が掛けられています。 さらに、その前には、よく生け花が生けられていました。
そう。。掛軸にとっては、土壁にも、床の間の作りにも、そして、、 床の間に置かれる生け花にも、意味があります。 さり気なく、湿度が上がりる様に仕向けられていました。 生け花は大変かとも思いますが、、水盤に水を張り、そこに花を浮かせ、 その浮かせた花に霧を吹くらいの事ならば、実行しやすいのではないでしょうか。 これはなかなか風流かと思いますし、出来れば、そうしてやってください。
今の家は昔の家に比べると、乾燥しているのは事実です。 といっても、湿気が多ければ良いと言っているのではありません。 普通、家の湿気の有る無しを問題にしがちですが、 本当に大切な事は、やはり出来るだけ風通しを良くして、家を呼吸させることなのだと思います。