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☆掛軸と土壁 2000.5.2




掛軸を仕立てる場合、反りを防ぐ為の様々な手段を、実は、行なっています。 周りの切れ地の厚さとのバランス、裏打ちの紙の選定と回数、紙の漉き目の向き、 糊の濃さ、そして軸棒と八双の木の取り付け方向とその大きさと重量。。 こういうことに気を配ることにより 適当に作られた物に比べれば、確実に反り難いのですが、それでも絶対に反らないとは、言い切れません。 なぜなら、厚みを持たせてはありますが、 軸棒に巻ける程度の“しなやかな紙”である事には代わりないからです。

これからの季節は、湿度の高い日が多くなり 掛軸にとっても、良い季節です。 それは、壁にかけた掛軸を一年間観察し続けますと。。なんといっても 梅雨時が、一番しっとりとバランス良い形状で佇んでいるからです。

最近の家は、土壁が減りました。
床の間といえども、例外ではありません。
一見、土壁に見える壁でも、ベニア板に、それっぽいクロスが張ってあり、 握りこぶしで、軽く叩くと「ボコ、ボコ」という頼りない音が返ってきます。

床の間に掛けた掛軸の後ろの壁が、 土壁である場合と、ベニアの場合でその状況は全く違います。 土、木、紙の三種類のそれぞれ違う速度で湿気をコントロールしていた昔の家と、 ベニア板と断熱材主体の今の家。 さらに、エアコン等で基本的に乾燥され続ける状態の中で掛けられる掛軸。。 どう考えても、今の家の方が、乾燥して反りやすいのです。

昔の家の座敷の床の間を思い出して下さい。 障子を隔てて向こうに縁側があります。 縁側に座って見上げれば、深い軒が見えます。 そのため南に面しているにもかかわらず、 座敷には、日差しが燦燦と、、という具合にいきません。 その代わり天気が良くても悪くても窓を開け放つ事が出来ます。 少し抑えた光が入る座敷の床の間は、引っ込んでいるため、 さらに陰影が深くなります。 床の間の中を見上げると、天井の高さと同じ高さがあるにもかかわらずその手前に、 鴨居の高さの壁が残してあります。 そして“その中”に、ひんやりとした土壁を背にして、掛軸が掛けられています。 さらに、その前には、よく生け花が生けられていました。

そう。。掛軸にとっては、土壁にも、床の間の作りにも、そして、、 床の間に置かれる生け花にも、意味があります。 さり気なく、湿度が上がりる様に仕向けられていました。 生け花は大変かとも思いますが、、水盤に水を張り、そこに花を浮かせ、 その浮かせた花に霧を吹くらいの事ならば、実行しやすいのではないでしょうか。 これはなかなか風流かと思いますし、出来れば、そうしてやってください。

今の家は昔の家に比べると、乾燥しているのは事実です。 といっても、湿気が多ければ良いと言っているのではありません。 普通、家の湿気の有る無しを問題にしがちですが、 本当に大切な事は、やはり出来るだけ風通しを良くして、家を呼吸させることなのだと思います。





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