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50年程前に建てられた家から、地袋を、その天板に使われている欅の板と共に、 新築中の家へ移設したいので、張り替えてほしいと依頼されました。 その地袋は、見る限り一度も張り替えられたことがない様子でした。 一見するとひどく焼けて、所々破れのある表の本紙でしたが、よく見れば、その痛み具合であっても、 シャンとした状態を保っています。そんなところからしても、良い仕事をしているのは明らかでした。 さらに、表紙には目の細かい絹の織物が使われているし、裏をみても、 上質の紙。引き手は銅の手打ちで、引手釘もそれに合せて銅。縁も女桑でした。
下地を見ると、奉具紙が使われています。 50年前といえば、戦後間もないわけで、この辺りから昭和30年代辺りは下地の紙の素材に新聞紙なども 頻繁に使われた時代でした。ちなみに新聞紙の使用は、知っている限りでは、明治の後半から始まり、 大正時代、昭和のこの辺りまで割と多く見られます。戦前戦後にかかわらず、 また時代が新しくなればなる程、 奉具紙を使っていること自体、高級な仕事です。
骨組みに、胴張り(胴張り紙)、2編蓑張り(奉具紙/高さ8寸5分)、 蓑しばり(奉具紙)、ここまでで下地。 これに茶受けで、この小さい面積にもかかわらず3枚継ぎで袋張り、 そして本紙という6編仕上げ。本紙と袋張りは、水糊でしっかりと裏打ちの状態で仕立てられています。 自分と同類の仕事で、、嬉しい。これで、胴張りにもう一枚、胴縛りをして、7編仕上げであったら、、
縁をはずすと、折れ釘が使われていました。 折れ釘は、どちらかといえば、昭和初期までが主流ですが、戦後の物でも使われていることがあります。 これからしても、もう少し時代が古いのでは?と想像しています。
奉具紙は、反故紙ともいい、どんな紙かといえば、昔の「大福帳」等の実際に文字の書き込まれた、、 要するに使い古しの紙なのですが、昔の人の単なるリサイクルと思われそうなこの紙、、 この和紙を使うところに、実はもっと深い意味があるのです。驚いた事に、 半世紀たった今も強度が落ちていないというのが、その理由の一つです。 こういう仕事に出会うと、その経年劣化に対する耐久性には、いつも驚かされます。 せっかく、今では貴重な奉具紙を使って在るのですから、修理も同様な和紙を使いました。
修理が終了して、よく乾いたら、袋張りをします。 使用する紙はここでは、石州代用紙を使用しています。
もう一度袋張りをし、 袋張りを二編とし、ここまでで計六枚の紙の層になっています。
表に張ったのは、手漉き越前和紙です。襖に仕立てる和紙としては、最高の物です。 それ自体、強さと耐久性を持っていますが、さらにその良さを延ばす為の下張りです。 裏と表で、総計14枚の紙が重なっている 事になります。 それでも、とても軽い仕上がりです。