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五重塔と尺貫法 1999.7.5




先の台風の時に、どこかの五重の塔に、杉の木が倒れかかり、上部から下部に至るまで、ナタで切ったように相当の被害を与えた。それを知ったとき、台風で倒れる木がそんなに近くに存ったということにがっかりした。重要文化財を守ると言う本当の意味を履き違えているのは明らかだ。気が付かなかったというのなら言語道断だが、重要文化財というたいそうな名を与えているのなら、ヤバイ木が存れば正しい処理を施すべきである。

ところで、そのニュースを聞いて、まず驚いたのは、かなりの応力がかかったはずなのに、まだ、凛として立っているということ。五重の塔の形は杉の木に似ている。見た目通り屋根の部分はやはり枝葉であって肝心の部分に被害が及ばないよう非常にうまく、力を逃がしている。コンピューターの無い時代に、それより繊細な計算ができている。そう考えても、あながち間違いではない。

昔の技術を侮っている人は論外だが、普通はそんなことは考えられないと、ないがしろにしてしまうか。特別な人が造ったからだと、神格化して終わる。

本当にすごいところは、計算した後にでた小数点以下の感覚だ。そういう点で、尺間法はとてもいい。仕事がら使い続けてる当の本人がいうのだから本当にいいのだ。尺で造るのは、建具屋と、表具師くらいになってしまった。大工さんは尺とメートルの間で苦しんでいる。

ある大工さんとの会話中、今の設計図はミリの表示なので、こっそり尺に計算し直して、造っている。尺のほうが仕事をしやすいし、換算時に多少のずれがあっても支障なくできるから設計者にはばれない。それはその通り。と、盛り上がった後に、「ミリのほうが、目盛が細かいからしかたないか。」と聞き捨てならないことをおしゃっる。

確かにスケールの目盛の上では、メートル法はは1ミリ単位、尺は1分(3ミリ)で表示されているので普通の人はミリのほうが細かいと思うだろうけど、よくスケールを眺めていただきたい。1ミリの狭く見えること、それにひきかえ1分の半分である5厘(=1.5ミリ)はミリの感覚からすると、3倍くらい大きく見えないだろうか。1分でメモリは終わっているが、1厘(0.3ミリ)までは実際に使用する単位として存在しているし、楽に追える。さらに細かく1厘の半分(0.15ミリ)まで尺のスケールでは実感できる単位なのだ。これは、設計上は、分の半分の単位、5厘(1.5ミリ)までで済ませて、それ以下の厘の単位は制作上の兼ね合いの調整に使用すると受け取れる。鉋で1分(3ミリ)削るのは結構大変だが、5厘なら調整しながら削るのは容易だ。物を造る立場からすると、尺は絹の目の様に繊細で細かいのだ。さらに6尺で1間(けん)(大体畳の長手方向の長さ)、という単位の割り振り。使って見れば、これもブロックのように感覚でとらえやすい。大まかな単位でつかんで、鉋で一削りする緻密なところまで柔軟に対応できている。これは人の大きさに近い物を人の感覚で捕えやすい単位に割り振ったとてもよくできたものなのだ。尺は1分の1スケールでの使用に優れている。日本の文化として、せめて、建築関係だけにでも残しておいていただきたい。




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